遺伝子とアトピー |
監修/白川太郎(しらかわたろう) 京都大学大学院医学研究科教授1955年生まれ。 京都大学医学部卒業後、同大学胸部疾患研究所付属病院に入局。 その後、高槻赤十字病院、大阪大学医学部・オックスフォード大学医学部講師を経て、ウエールズ大学医学部大学院実験医学部門助教授。 2000年4月より現職。理化学研究所遺伝子多型研究センターアレルギー体質関連遺伝子研究チームのリーダーとして研究を推進している。 |
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この特集では「アトピー」は、「アレルギーを起こしやすい体質(抗原抗体反応におけるIgEを産生しやすい体質)」とほぼ同じ意味で使用しています。
ただし、アトピー性皮膚炎とは、必ずしもアレルギー反応だけで起きるとは限りません。(IgEの数値が通常値でもアトピー性皮膚炎の症状が出ている場合があります。)「アトピー」体質は、アトピー性皮膚炎に限らず、アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支喘息などの症状に共通するものです。
近年「アトピー」体質というと、アトピー性皮膚炎のことのみを指しているように誤解されがちですが、医学的には「アレルギー」体質とほぼ同義語として使われています。
- アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境的要因:その1
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遺伝子両親がアトピー性皮膚炎ではないのに子供がアトピー性皮膚炎になってしまったとか、同じ兄弟でも発症したり、しなかったり。
アトピー性皮膚炎には「どうして?」と思うことがいっぱいあります。アトピー性皮膚炎と遺伝子の関係を知って、治療や予防に役立てましょう。
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残念ながら、アトピー体質とは親から子に遺伝してしまうものです。
しかしたとえ体質を受け継いでしまったとしても、生活環境をコントロールすることでアトピー性皮膚炎の発症を抑えることは可能なのです。
これを知っておくことはとても大切なことです。
- ■ アトピー体質は遺伝する
- アトピー体質が遺伝することはすでにわかっています。統計的には、片親にアトピー体質があった場合、それが子供に出る確率は約3割。両親ともアトピー体質だと約7割の子供がアトピー体質になってしまいます。
これは、親の体質が子供にも遺伝してしまう垂直型の遺伝パターンにかなり近い数値です。
しかし、これだけでは説明できない面もあるのです。たとえば両親や祖父母にはアトピー性皮膚炎がないのに、子供にだけあらわれるというパターンがあるからです。
こうした遺伝の仕方を「劣性遺伝」といいます。アトピー体質の遺伝には、こうしたいくつものパターンが複雑に組み合わさっていると考えられています。
- ■ 環境・ライフスタイルも発症要因になる
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アトピー体質にかかわる遺伝子を持っていても、必ずしも発症するとは限りません。
また、同じ遺伝子を持っているのに、ある人はアトピー症状を示し、ある人はそうならないという場合も。これは、その人の生活環境や、ライフスタイルがアトピー性皮膚炎の大きな発症要因になっているからです。
たとえば、喫煙や飲酒によって、遺伝子の働きが悪くなったりよくなったりすることがあるのです。現在、アトピー性皮膚炎の患者数は、戦前の約20倍に増えています。
この間、遺伝子は変わっていませんから、現在のアトピー性皮膚炎の患者のほとんどが、大きく変化した環境やライフスタイルの悪化により、発症していると判断できます。
したがって、環境的要因を改善することで、約90%以上の患者のアトピー性皮膚炎の症状を和らげることは可能なのです。膚炎とに遺伝してしまうものです。
しかし、も、生活環境をコントロールすることは可能なのです。