温泉と入浴の効用 |
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古事記や日本書紀の古来より温泉に親しんできた日本には、近代的な温泉療法学を取り入れた医学にも長い歴史があります。
過去の時代においては、「温泉につかっていたら○○の痛みがとれた」といった経験的な効用について多く語られてきました。しかし近年では、科学的なエビデンスに基づいた効用に目が向けられています。現代の医療における温泉療法の定義は、右のようなものでしょう。 これらの定義から、温泉療法は単に湯につかるだけのものではなく、温泉地を取り囲む自然環境や食事、運動などが一体となって自然治癒力を引き出す総合的な療法 といえるでしょう。
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温泉療法には、大きく2つの側面があります。一つ目は、治療としての側面です。これは文字通り、病気を治すための治療、さらにはリハビリテーションなども含めます。そしてもう一つは、健康維持増進としての側面。これは、生活習慣病などを病気前段階で予防し健康の維持をはかるものです。
治療、リハビリ、健康増進など、温泉療法はどんな場面にも有効に介入できます。薬物療法や外科的治療など、他の療法と互いに補足し合うことで、総合的な観点からの治療が可能になります。
例えば、北里研究所病院は、青森県の酸ヶ湯温泉と共同で温泉療法の研究に取り組んでいます。酸ヶ湯温泉は八甲田山の国民公園にある約300年の歴史を持つ温泉です。ここでは科学的事実に基づいた21世紀型の温泉療法モデルが模索されています。
- 北里研究所病院と酸ヶ湯温泉の共同研究では、温泉を活用して科学的効果を提示するための条件の一つとして、温泉療法前後で利用者が確実にベネフィット(顔色が良くなる、睡眠がとれるようになる、食欲が出る、気分が晴れる、などの満足感)を体感することが必須であるとしています。
その有効性を最も簡単に計る指標として、フェイス・スケールがあります。フェイス・スケールとは、様々な表情をした顔の絵の中から、自分の気分を表す顔を選ぶというもの(にこやかな顔ほど点数が低い)。単純な方法ですが、利用者の客観的な満足度を計るには、とても有効な方法です。例えば、温泉療法に関する数年前の調査では、適切なプログラムが行われることによって約95%もの人のフェイス・ポイントが下がり、気分が良くなって帰ることが確認できたそうです。
温泉療法の効能や有効性を科学的に発信することで、温泉・食・環境など様々な用件を統合させた総合的療法は、より注目されていく のではないでしょうか。