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あとぴナビ/スペシャルインタビュー

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取材・文/大石久恵 、撮影/橋詰芳房
女優 叶和貴子



PROFILE

北海道函館市出身。 80年、テレビドラマ「源氏物語」で女優デビュー。以来、ド ラマ、バラエティー、トーク番組への出演多数。テレビ以外 でも、舞台、映画など幅広く活躍。 97年、持病の関節リウマチが悪化し、芸能活動を休止し治 療に専念する。前向きに治療に取り組み、2000年から芸能 活動を再開。発病前の多忙でストレスの多い生活を見直し、 無理のないペースでテレビ出演や公演活動を行っている。
  • 80 年代にデビューして以来、芸能界で幅広く活躍してきた叶さん。 病気で休養していた時期もありましたが、かつての多忙な生活を反省し、今では「無理しない」をモットーに芸能活動を再開しています。 「いっぽいっぽ」ということばを大切にしている叶さんのライフスタイルと元気の素について伺いました。

  • ほんわかとした雰囲気で、おっとりと語る叶さんは、テレビドラマや映画、舞台などで幅広く活躍してきた女優さんです。しとやかなイメージで知られますが、その素顔は多趣味でアクティブ。自宅から見える富士山の写真を撮り続けたり、好きなアーティストを追いかけて海外のコンサートに出かけたエピソードもお持ちです。
    「いろんなことに興味を持って、すぐに試し たくなってしまうんですよ(笑)。続かなく なったとしても、『まずは行動を起こすことが大事』『どんなことからも得るものがある』と思います。こんな考え方をするよう になったのは、病気の経験も大きいですね」。

  • ■ 多忙な女優生活そして突然の発病
  • 女優 叶和貴子
    芸能界デビューは23才のとき。音大時代の先輩が「バックコーラスの仕事があるんだけど」と声をかけてくれたのがきっかけです。
    「大学の学園祭でのど自慢に出たのを先輩が見てくれていたみたいで。子どもの頃から歌手にあこがれていたので、『やります!』とすぐに返事をしました」。その後、「大正・昭和の雰囲気を持つ新人女優」を探していたプロデューサーの目にとまり、時代劇に出演。あっという間に人気女優となりますが、その裏側では芸能界で生き抜くために、自分に対して厳しく、 ストイックになる生活に……。

    「私は器用ではないので、自分で自分を追い込まないと役作りができないんです。女優の仕事はいくら掘り下げても『これでいい』ということがなく、ときには役に取りつかれたようになったことも。そして、とうとう体を壊してしまいました」。

    女優業に打ち込み、多忙なスケジュールに追われていた叶さんを突然襲ったのは、関節リウマチという病気。それはまさに青天の霹靂でした。症状が悪化してからは、芸能活動を中断して治療に専念することに。本来は外に出ることが好きなのに関節が痛くて動けず、好きな仕事もできず、家の中でうつうつと過ごす毎日。
    「どうしてこんなことになってしまったの?」と、落ち込 んでばかりでした。
    「ある日、電気もつけずに外を眺めていたら、丹沢連峰の向こうに夕日に染まった小さな富士山が見え、『きれいだなぁ、忙しいときには気がつくこともなかったなぁ』とふと思いました。それからは、毎日のように表情が違う夕日と富士山をながめていると心が慰められました。それでも孤独な世界にひたって泣いてしまう日々が続きました」。
    それは悲しく切ないひとときでしたが、同時に今後のことを考えたり、自分自身と向き合う時間にもなりました。そして、ひとしきり自分の世界に浸ることで気持ちの整理がついたのか、「また外に出よう」という気分になったのです。
  • ■ つらかったけれど、 病気から得たものもある
  • 発病から5年間の休養を経て芸能界に復帰。活動再開の初仕事は、TV番組で自らの病気体験を話すことでした。ところが、収録の前日、首から下に原因不明のジンマシンが出てしまいます。
    「本番で顔にも出たらどうしよう」と動揺する叶さんでしたが、ある親友から励ましの言葉をもらいます。 「『昨日は何ともなかったのに、今日は顔にも出てしまって』と話せばいいじゃない。そのままのあなたで いいのよ」と。
    「その言葉で吹っ切れました。あのときのジンマシンは、久々にテレビに出演する不安やプレッシャーが原因だったのでしょうね。結局、顔には出なかったものの、体って正直。どこかに無理があると教えてくれるんだと思いました。
    『もっと肩の力を抜いて』と教えてくれたんですね、きっと」。現在では芸能活動もプライベートも「無理をしない範囲で」と心がけています。これは、無理をしてきた経験があるからこそ思えること。闘病生活の経験が、まさに人生の転機となったのです。

    闘病時にはこんなエピソードもあります。弦楽器の音色が好きな叶さんは、チェロ奏者ヨーヨー・マの大ファン。以前、彼の来日公演のチケットが取れないことがありました。あきらめ切れない叶さんは、「ヨーヨー・マと行くドイツ」というツアーがあるのを知り、思い切ってドイツ行きを決心。ドイツ各地で行われたヨーヨー・マの演奏会を3日間に渡って追いかけました。驚くべき行動力!
    「最終日にヨーヨー・マと一緒に撮った記念写真は今も大切に飾っています。『たとえ病気でも、自分がやりたいことなら行動を起こすことができる!』と、ツアーに出かけたことで勇気をもらいました。行動を起こすことで”気づき”があると感じられるようになったのは、病気からの贈り物ですね。体調が今ひとつのときは、今でも気持ちが沈みがちになります。でも、たとえ落ち込んでも再び浮上する自分が見えてきて、落ち込みと浮上を繰り返すたびに『新しい自分が生まれてくる』と思えるようになりました」。
  • ■ 愛犬の存在に励まされ、生きる姿勢が前向きに
  • 叶さんの最近の元気の素は、愛犬ポロとの散歩です。
    「ちょうど体調が戻り始めた頃に飼い始めました。関節リウマチは朝、手足がこわばってつらいんですが、ポロが『クーン』と鳴くと、足が痛くてもそばまで行くことができちゃう(笑)。子犬の頃は、寝るときに私のおなかに寄り添ってくるのがいとおしくて。ポロがわが家に着てから、すっかり元気になりました」。

    女優 叶和貴子 最初は「ペットに死なれてはイヤだし」と、飼うことをあきらめていました。でも、『気持ちの上で閉じこもってはダメ』 『小さなことから少しずつアクションを起こそう』と発想転換。すると『失敗しても自分がやりたかったことだから、一歩を踏み出すことに意味がある!』と思えるようになっていったのです。

    「何をするにも、まずは最初の一歩を踏み出すことから。そして自分のペースでできることを丁寧に積み重ねていきたい。それで私は『いっぽいっぽ』を座右の銘としています。

    生きているといろいろなことがあります。でも、ただ1度の人生です。ほかの人と自分を比べたりしないで、自分らしく頑張ろう!と思っています。自分のできる範囲のことをしながら、なるべく笑って過ごしたいですね。これからも『いっぽいっぽ』を大切にしていきたいと思います」。




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