あとぴナビ/スペシャルインタビュー |
取材・文/大石久恵 、撮影/橋詰芳房 |
PROFILE 1978年歌手デビュー。1981年「まちぶせ」がヒットしNHK紅白 歌合戦出場。歌手、声優、司会者など幅広く活躍。1987年 にB型肝炎発症。入院・療養生活後、翌年復帰。復帰後は、 本人作詞のCDアルバム「HOME・MADE―ただいま―」や 話題の楽器「一五一会」を使った「With みんなの一五一会」 シリーズ発売。NHK「母と子のテレビタイム」出演やファミリー コンサート、オリジナルライブ、闘病経験を元に健康に関する 講演会など幅広く展開。現在NHKラジオ第1「こうせつと 仲間たち~」隔週火曜日レギュラー放送中。著書に闘病記 『いっしょに泳ごうよ』(集英社)がある。 |
- クリッとした瞳と声量のあるよく通る声。 1980年代初頭、トップアイドルとしての絶頂期にB型肝炎を発症し、一時は休養生活を送った時期もある石川さん。 現在では体調も安定し、歌手活動とともにファミリー向けの番組や講演会など、活動の場を広げている石川さんに、 病気とともに明るく前向きに毎日を過ごすための心の持ち方、健康管理のコツについてお聞きしました。
- 「実は私、肌のカサカサやかゆみな
ど、幼稚園の頃まではアトピー
の傾向がありました」と話して
くれた石川さん。成長とともに、かゆみを
感じることもなくなりましたが、
「今も冬になると肌が乾燥しやすいですが、肌を甘や
かさない程度のお手入れを心がけてます」。
歌手という仕事柄、のどはとても大事に
していますが、そのさじ加減も絶妙です。
「のどを大事にしなくては」と考えていますが、
「のどを冷やさないとか加湿するなどの
ケア位で、あまり過保護にしてのどが甘え
てしまわないように(笑)しています」。
たとえば抗菌に神経質になりすぎると、 かえって免疫力の低下を招くのと同じで、 「体のバランスを保つには神経質になりす ぎないのも重要」と考えているのです。 現在の石川さんは、B型肝炎を抱えてい ることもあり、無理しない範囲で活動し、 「症状があらわれたときは覚悟を決めて療 養に入る」と決めています。
健康管理の基本は〈バランスのよい食事〉 と〈規則正しい生活〉を心がけることにつ きますが、「○○しなくちゃ」と枠にとらわ れすぎると、ストレスになりがち。 「体と心は一体なので、自分の心が疲れな い状態を第一に考えています」。
- アイドル絶頂期に突然の病気の発症
小学校時代は天地真理さんにあこがれ、 中学・高校時代はフォークソングを聴き、 「私も歌いたいなあ」と、ひたすらあこがれ る気持ちで芸能界入りを果たした石川 さん。デビューから4年目にリリースした 「まちぶせ」が大ヒットして、一躍トップア イドルとなりました。
当時はテレビにラジオ、レコーディング、 雑誌の取材等で多忙な日々でしたが、 「歌うことが楽しくて、充実感でいっぱいで した。スケジュールがつまって休むことが できなくても、『もっと頑張らなきゃ!』と いう気持ちで過ごしていました」。 しかし、1987年にB型肝炎を発症し て以来、生活が一変します。発症直後は「なぜ、私が病気に?」という驚きとともに、ネ ガティブな気持ちで苦しんだ時期もありました。 「生きている限り、この病気と付き 合っていくという現実を受け入れるには、 やはり時間が必要でしたね」。
また、当時は血液を介して感染するB型 肝炎に対する偏見が大きく、まさか自分が 周囲の人たちから誤解や偏見を受けると は、予想もしていないことでした。 「でも、自分がうつむいてしまうことはあ りませんでした。だって、生まれつき持っ ていたものが発症してしまっただけです から、うしろめたさを感じる必要はないと 思ったんですよ」。
今では「病気とともに生きていく」と受け 止めている石川さん。定期的に検査を受け て、心配なときも早めに対処すれば大事に はいたらないと知り、「病気をきっかけに、 自分のライフスタイルや気持ちの持ち方を 見直すことができました。病気から得たこ とは、とても多いと実感しています」。
- ■ 講演活動を通じて私も元気をもらっています
療養生活を経てからは、子ども向けの番 組の出演や、肝炎や感染症などの講演活動 など、活動の場も広がりました。 「講演会を通して、病気であっても前向きに 生きている人たちの心に触れ、私自身も元 気や勇気をもらっています」。
今では「頑張りすぎず自然体で生きる」と いうのがライフスタイルの目標です。 「〈自然体〉って、ただ何もしないということでは なく、料理のさじ加減を覚えるのと同じで、 経験や意識することも必要なんです。自分 なりの努力と経験があってこそ、自然体に なれるんだと知りました」。
そして、周囲にサポートしてもらう勇気 を持つことが、自然体で生きる助けになる と感じるようになりました。 「私の場合、人と話すと気持ちが楽になる ので、講演では『人間は1人では生きてい けないもの。1人で抱え込まないで、周囲 とのコミュニケーションを大切に』という話 をよくしています」。
人の心は複雑で、方程式のようにはいか ないけれど、言葉で伝えることで自分の心 が見えてくることもあるのです。また、コ ミュニケーションは自分の視野を広げると ともに、一緒に分ち合う気持ち、歩み寄る 気持ちの大切さも教えてくれます。 「病気は自分だけの問題ではありません。 自分を支えてくれる人の思いやりに気づく と、『元気でいなきゃ』と思えるようになり ます。これってとても大切なこと。私も病 気になって初めて気づきました」。
最近は〈トーク&ライブ〉という活動で、 自らの経験を語るトークのあとで、ハート フルな歌声を聴かせてくれる石川さん。 「あるとき、1人の女性が『お話のあとで歌 を聴いたら、とても心に響いて元気になり ました!』と言いに来てくれたんです。自 分が伝えたい思いを受け取ってもらえた! という喜びとともに、私自身も聴きにきて くれる人たちから元気をもらっているのを 改めて実感しました」。
石川さんがこれまで重ねてきた経験や思 いをトークや歌にのせて伝える〈トーク& ライブ〉のひとときは、ステージと客席の エネルギー交換、そして分かち合いのひと ときとなっているのです
- ■ 病気の経験から多くのことを学んで、今の私があります
-
現在は体調が落ち着いている石川さんで
すが、健康管理のさじ加減にはいまだに難
しさを感じています。肝臓は沈黙の臓器と
呼ばれるだけあって症状を出してくれない
ため、疲れやだるさを感じたときには、病
的なものか疲労なのか、判断がつかないか
らです。そのため「もしや再発?」と不安に
なり、定期検査の数値を確認してホッとす
ることもあるといいます。
「でも、過度に神経質にならないようにし ているんですよ。そして数値が悪いときが あっても、『なんとかなるさ』と気を楽にし て、いい意味でのいい加減さを大切にして 乗り切ろうと思っています」。 発症前は「まだまだ頑張れる」と全力で疾 走する生活でしたが、今では「休養する勇 気を持つ」ということが石川さんの頑張り のテーマになりました。
「『活動量をセーブする』って意外と難しいの。自分がそれまでやってきたことだから、 『できる!』と感じてしまうんですね。だか ら『疲れたな』と思ってセーブするには勇気 が必要。自分なりのさじ加減で自制心を持 つ頑張りをしています(笑)」。 また、今では、〈自分の歩幅〉でのマイペー スを大切にしたいと考えるようになりまし た。
「無理のない歩幅で、楽な呼吸で歩くの がいちばんですもの。もしも病気にならな かったら、こんなふうに自分を見つめるこ ともなかったかもしれません」。 体調が心配で気持ちが萎えてしまったと きは、「必ず元気になるから、少し時間を ちょうだい」「あきらめないようにしよう よ」と自分の心に言い聞かせます。
「つらいときは1人で悩むばかりでなく、周 囲の人に助けてもらいながら乗り越えてい こうよ、って思います。これからも『無理を しない』努力を続けながら、自然体を目指 していきたいですね」。