あとぴナビ/スペシャルインタビュー |
取材・文/末村成生 撮影/橋詰芳房 |
PROFILE 1959年生まれ。ワタミ株式会社代表取締役会長・CEO。 84年に有限会社渡美商事を創業。86年に株式会社ワタミ(現ワタミ株式会社)を設立。92年に居食屋「和民」 を開発。2000年に東証一部上場。現在は外食・介護・高齢者向け宅配・農業など幅広く事業を展開している。 個人として、学校法人郁文館夢学園理事長、医療法人盈進会(えいしんかい)岸和田盈進会病院理事長、公益 財団法人スクールエイドジャパン代表理事、NPO法人「みんなの夢をかなえる会」理事長などを務める。 |
- 居食屋「和民」などの外食産業で知られるワタミグループを一代で築き上げた渡邉美樹さん。現在では介護、農業の分野にも参入し、
公益財団法人の代表理事としてカンボジア・ネパールの子どもたちへの教育や食糧支援も行うなど、多岐にわたる活動で知られています。
その出発点は「会社の社長になる」という小学生時代の夢から始まりました。
ご自身のライフワークとして、5年前から学校経営にも携わっている渡邉さんに、夢を実現するための生き方、心の持ち方について伺いました。
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自分は将来、社長になる!」と、渡邉さんが決めたのは、10歳のときのこと。最愛のお母さんが
亡くなり、その半年後にお父さんが会社を清算したのがきっかけでした。「母を失った悲しみから、
キリスト教に傾倒した時期もありましたが、『自分の夢は事業を起こして社長になることだ』と思い
直し、24歳で会社を創業しました。その後は〈創業10年で店頭株式公開〉〈2000年に東証一部上場〉
という夢を一つ一つ実現して、現在に至っています」。
- ●●● 自分のためだけではない夢を持とう
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渡邉さんにとって、夢とは思い描くだ
けで心をワクワクさせてくれるもの。「た
だし、大切なのは単に自分だけのためで
はなく、自分以外の人も巻き込んでいく
ような夢を持つこと。それこそが夢を実
現させる原動力になる」といいます。
現在理事長を務めている学校の生徒た
ちには、『人に迷惑をかけなければ何を
してもいい』という人生ではなく、周囲
に関心を持って、自分の役割を見つけて
ほしい。自分さえよければいいのではな
く、周囲と関わる中で責任感に目覚め、
それが自分の夢へとつながっていくとい
うことを知ってほしいと思っています。
渡邉さんが〈自分のためだけではない 夢〉を初めて意識したのは、26歳で事業が軌道に乗り、多額の年収を手にしたと きでした。「自分はこれだけの収入を得ら れるようになった」という責任とともに、 「自分だけが満たされればいいわけではな い」と気がついたのです。
「自分は何のためにこの会社を大きくした いのか?と考えたとき、まず第一に社員に 幸せになってほしいと思いました。そし て、関連会社やお取引先様、お客様から〈あ りがとう〉と喜ばれる会社に成長するこ とが自分の夢だと決意を新たにしまし た」。
現在では介護、農業の分野にも携わっ ているワタミグループですが、農業に参 入したのは、「安全・安心な食材を提供し たい」と考えて、有機農業生産法人を設 立したのがきっかけです。また、介護事 業を始めたのは、病院の経営再建を依頼 された際に高齢化社会の現実を目の当た りにし、外食産業で培った食とサービス が介護にも役立つのでは?と考えたから です。
「ジャンルは違ってもすべて根っこは一緒 です。いかに〈ありがとう〉を集めていく か。これが私のテーマです」。
- ●●● カンボジアの子どもたちに幸せとは何か教えてもらった
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企業人として成功し、多くの夢を実現
してきた渡邉さんが現在力を入れている
活動の一つに教育支援があります。
2000年にNPO法人を設立(2009年10月より公益財団法人として活動)し
て以来、カンボジアやネパールなどで学
校建設を中心とした支援活動を行ってい
るのです。
「初めてカンボジアを訪れたときは衝撃を 受けました。想像を絶する貧困のなか、 学校にも行けない状況下で生きているに もかかわらず、カンボジアの子どもたち は、物資の豊かな日本に暮らす子どもた ちよりもずっとイキイキとした表情をし ていたのです。今では毎年カンボジアを 訪れていますが、目をキラキラさせて学 ぶ子どもたちから、〈お金には代えられな い幸せ〉を教えてもらった思いです」。 渡邉さんには10歳のときから毎日日記 をつける習慣がありますが、実は24歳の ときの日記に「将来、学校をつくる」とい う一文があります。「学校をつくる」のは、 長年温めてきた夢だったのです。
「今も就寝前には日記を書きながら、その 日一日の自分自身を振り返って反省する」 という渡邉さん。「『自分が進むべき道筋 はこれでいいのか』と日々検証しながら 夢に向かっていく毎日を、私は何度も繰り返してきました」。 渡邉さん流の夢の実現法は、夢に日付 を入れること。未来から逆算して、自分 がやるべきことを明確にし、日々やり抜 いていくことで、夢に一歩ずつ近づいて いくのです。
「計画通りに運ばないときは、日付や計画 を見直して計画修正することもたびたび あります。夢に近づくためには、どうし ようと悩むよりも、『自分は今、何をなす べきか?』と具体的に考えて、必要なこ とを一つ一つ行動に変えていくことが重 要です。すると必ずゴールが見えてきま すよ」。
- ●●● 夢を追いかけている人たちを応援します
渡邉さんは、今年の春から〈みんなの 夢をかなえる会〉というプロジェクトを スタートしました。その中で「みんなで 夢について考えよう」という一般参加の シンポジウム形式のイベントを、全国各 地で開催しています。インターネットで も夢を募集したところ、中学生から80代 のお年寄りまで、オリジナリティあふれ る夢がたくさん寄せられました。そこで、 参加者が自分の夢を発表し合う場とし て、〈みんなの夢アワード2010〉が企 画されました(詳細は下欄をご覧くださ い)。
当初、渡邉さんは「日本の若者にはど んな夢があるのかな? 夢の種を播けれ ばいいな」と考えて、この取り組みをス タートしました。
「予想よりもたくさんのすばらしい夢がエ ントリーされたので、日本の若者も捨て たものじゃない!と思いました。すでに 種は播かれていたんですよ。あとは芽が 出るように水をあげればいいだけです。 日本は物資には恵まれた国です。だか らこそ、「お金では買えないものがある」 という価値観を持って、夢を追いかけて いる人たちがたくさんいます。自分の周 囲に関心を持ち、責任を果たそうとする 人たちがこんなにたくさんいる!と確認 できたことは、〈夢シンポジウム〉を開催 した最大の成果でした」。
今後は〈夢シンポジウム〉を継続的に開 催しつつ、〈みんなの夢アワード〉で優秀 賞を授与された夢には、夢の実現に向け てサポートしていくことも検討中です。 「『今はまだ何をしたいのかわからない』 と、夢を探している人もいるでしょう。 そんなときは『自分の夢を見つける!』と いう夢に日付をつけることをすすめてい ます。目標達成日を決めることで意識の 持ち方が変化して、日々の過ごし方も変 わってくるんですよ。
最初は『○○がほしい』という夢でもい い。私の昔の夢も『中古のクラウンがほ しい』でしたから(笑)」。
夢はどんどん進化して、発展していく もの。「夢を追いかける途中で目的そのも のが変わったり、達成期日の変更もアリ」 と渡邉さんはいいます。
「大切なのは夢見る心を持つことです。な ぜなら、夢を追いかける過程で自分自身 が磨かれ、人間性を高められるからです。 人は夢とともに成長していくもの。私自 身、『自分はまだ夢の途中にいる』と思っ ています。これからも常に自分の心がワ クワクするような夢を追い続けていきた いですね」。