あとぴナビ/スペシャルインタビュー |
取材・文/末村成生 |
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1952年東京都生まれ。文化人類学者・明治学院大学教授。 1988年米・コーネル大学で人類学の博士号取得。
「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人、NGOナマケモ ノ倶楽部世話人などを務める。6月に開校される「ゆっくり 小学校(スロースモールスクール)」校長。
主著に「スロー・イズ・ビューティフル」(平凡社)「『ゆっくり』 でいいんだよ」(ちくまプリマー新書)などがある。
- 難しい環境問題を、独自のしなやかな表現で伝えてくれる辻信一さん。 スローライフ、ゆっくりでいいんだよ、 これらのメッセージの核心部分をじっくり深く教えてもらいました。
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大量生産と大量消費を繰り返
し、そのための効率化と経済成
長を優先する現代社会。このよ
うな社会に順応して生きていくために、
私たちは時として自分を見失うほど疲弊
したり、人生の本当の豊かさとは何か思
い悩むこともあります。
経済的な豊かさは、これまで私たちの 生活に様々な恩恵をもたらしてくれまし た。しかし、このような生活をいつまで も続けていくことは可能でしょうか?
全世界の人々が先進国並みの暮らしを 営もうとすれば、地球が何個も必要とい う話も聞きます。実際に、かなり以前か ら化石燃料の枯渇が警告され、エネルギー の大量消費が取り返しのつかない自然破 壊を招いてきました。
- ●●● スローライフはゆっくり深いつながり
- これから何世代も後の未来の子どもた
ちに、豊かな自然あふれる地球を残すた
めにはどうしたらよいか? 文化人類学者
の辻信一さんは、スロー(slow=ゆっ
くり)という一つの態度をずっと提案し
てきました。スローライフ(生活)、スロー
フード(食)、スロービジネス、スロータ
ウン。人間の様々な営みにつけられた、
スローという言葉。「ゆっくりでいいん
だよ」と訴えるこの言葉には、根源的で
大切な意味合いがあると、辻さんは言い
ます。「スローとは、一言で言
えば“つながり”なんで
す。人間同士、あるいは
人間と自然の深い関係性
が成り立つには、常に本
質的に時間がかかる。お
互いを信頼したり、愛を
育むにはそれなりの時間が必要
なことはわかるでしょう。それ
は簡単に合理化・効率化できな
いものです。
経済の原理に従えば、逆にそ ういう非効率こそ効率化される べきものです。だから全てがよ りファスト(first=速い) であることを目指していく。効 率化によって経済効果は上がる けれど、それと反比例するよう に、僕たちの暮らしの質は損な われていくでしょう」
ゆっくり深いつながりを持と うとする態度が、スローライフ の根底にあります。少し抽象的 なこの言葉の真意に近づくため に、辻さんが渡米していた頃の 話を紹介しましょう。
- ●●● マイノリティに惹かれて
- 「僕は2
0代の頃から15年間、北米に住んで
いました。当時は、日本での生活にあま
り魅力を感じることができずに飛び出し
たんです。そこで一番惹かれたのは、いわゆるマ
イノリティと呼ばれる人たち。ワシント
ンDCの黒人街や東海岸の大都市に住む
様々な少数民族。あちこちにたくさんの
難民が集まっていました。カナダに住ん
でいた頃は、先住民・インディアンの存
在が常に身近でした。」
マイノリティとは社会的少数者、差別 や偏見にあった社会的弱者という意味の 言葉です。辻さんはマイノリティのどこ に惹かれていったのでしょうか? 「そういう人たちがかわいそうだと思っ て、一緒にいたわけではありません。彼 らを助けたいということよりも、自分自 身がすごく心地良さを感じ、助けられて いる。僕自身の幸せと非常に密接に関係 していて、いったいそれは何なのかと、 ずっと問い続けていました」