乳幼児とアトピー第10回 未来に向けて子どもの心を育てる |
監修:角田和彦 かくたこども&アレルギークリニック 小児科・アレルギー科 院長 1953年生まれ。 1979年、東北大学医学部卒業。専門は臨床環境医学・アレルギー疾患。自分自身を含め、 5人の子供と妻にアレルギー体質があることから、常に患者の視点ももちながら、具体的なアドバイスときめ細かい診療を続けている。 著書に『アレルギーっ子の生活百科』(近代出版)、『角田こども&アレルギークリニックのやさしいレシピ』、『食物アレルギー とアナフィラキシー』(芽ばえ社)などがある。 |
- アレルギー体質の子どもには、ADHD(注意欠陥・多動性障害)に似た症状がみられることがあります。その原因と対処について、考えてみましょう。
- 赤ちゃんの前で、「いないいな〜い」といいながら両手で顔を隠し、一呼吸おいて「ばあっ」と顔を出す。「いないいないばあ」という遊びをしてあげると、赤ちゃんは「きゃっきゃ」と笑ってとても喜びますね。この遊びは、赤ちゃんの情操や思考、行動力を育ててくれます。最初は単純に、隠れた顔が出てくることに驚きます。それを繰り返すと、顔が出てくることがわかってくるので、「いないいない」の後に顔が出てくるのを待ち構えるようになります。しばらく我慢して待っていると、「ばあ」と顔が出てくるので、予想通りの展開が起こったことに喜びを感じて笑います。
次に起こることを予想して、じっと我慢して待つこと。そして待った後には喜びがあることを、赤ちゃんはこの遊びから体験します。「我慢して待つ→いいことがある」という遊びを通した経験が、目標を考え、計画を立てて目標実現に向けて行動するという成長の基礎となるのです。
- 冒頭でなぜ「いないいないばあ」の話をしたかといえば、今回のテーマ「ADHD(Attention DeficitHyperactivity Disorder):注意欠陥・多動性障害」と大きな関係があるからです。ADHDとは、不注意や多動性、衝動性を特徴とする発達障害があり、生活に様々な困難をきたす状態をいいます。そして、アレルギー体質のお子さんには、このようなADHD的傾向を持つ子どもが多いのです。
アレルギー体質のお子さんは、個別の能力はキラリと光る素晴らしいものを持っています。しかし、精神活動や感情を統合してバランスよく発揮することが苦手で、秘められたすばらしい能力を発揮できないでいる子が多く見受けられます。このようなお子さんは、食事療法や生活環境の整備を行い、アレルギーの状態から抜け出て、注意力を養い落ち着いて行動できるようになると、本来持っている能力や才能を発揮できるようになります。
今回のお話は、ADHDという疾患を対象とするのではなく、そのような傾向がある場合にどうしたらよいかをお伝えします。
- ADHDの背景には、「未来に向けて自分の行動を調整する能力」がうまく発達していないことがあげられます。人は、成長とともに記憶を保持したり、待つことや我慢する能力を身につけながら、未来を予測して、目標や展望を持つことができるようになります。しかし、ADHDの傾向があると、目的を達成するにはどんなことをしたらいいか、何が必要で何が不要か、必要なことはいつどこで行うべきか、そのための時間・空間的配分を行うことが苦手になります。
だから、赤ちゃんの頃から「いないいないばあ」などの遊びを通して、発達をうながしてあげることが大切です。成長にしたがって、少しずつ家の手伝いをしてもらいましょう。アレルゲンを取り除くための寝具の掃除機がけでも何でもかまいません。掃除機をかけたり、食後の食器を片づけたりといったお手伝いを通して、仕事の一連の流れや、どうしたら早く上手にできるかといった段取りも学ぶことができます。手伝いができたら最後に褒めてあげることも大切です。
親御さん自身が、目標を設定して計画通りに進めることが苦手な場合もあるでしょう。そんな場合は、お子さんといっしょに学ぶつもりで、家事を一つひとつていねいにこなしていくよう心がけましょう。例えば、料理することは、いくつも同時進行する仕事の流れや時間配分を勉強する絶好の訓練といえます。小さなお子さんにもできるだけ手伝ってもらって、楽しく料理して美味しい食事ができれば、学びながら最高の時間を過ごすことができるでしょう。