ステロイド剤、プロトピック軟膏が身体にもたらす深刻な問題 |
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監修・資料提供: 木俣 肇
木俣肇クリニック院長・医学博士
京都大学医学部卒業後、米国のUCLA に3年間留学しアレルギーの研究に従事。帰国後、ステロイドが、アレルギーを媒介する蛋白であるIgE 産生を増加させることを海外の研究者と違う実験系で見出し、海外の免疫学雑誌に発表。IgE産生調節機構に関与している多数の海外の専門の 研究者からの一連の発表で、ステロイドによるIgE 産生増加は免疫学者の常識となった。
- ランゲルハンス細胞とアトピー
- 「あとぴナビ」6&7月号の特集『夏に向けてアトピーを悪化させないために知っておきたい心得』で
「ランゲルハンス細胞」の話に少し触れました。読んでくださった方も多いと思いますが、「ランゲルハンス細胞」という名前は
聞き慣れないものであったことでしょう。
すい臓にある「ランゲルハンス島」とよく似た名前をしていますが、それとは全く別の細胞です。どちらもドイツの 医学者・パウル・ランゲルハンスに発見されたため、似たような名称になっています。
さて、この細胞、アトピー性皮膚炎と深く関わっていることがここ最近の研究でわかってきました。 「ランゲルハンス細胞」と「アトピー」との関わり、また、「ランゲルハンス細胞」と「ステロイド剤」との関わり、 そして「プロトピック」との関わりなど、今わかってきつつあることのいろいろを、今回みなさんに医学論文を交えながらご紹介していきます。
まずは、「ランゲルハンス細胞」とはどういう細胞か、ここからお話ししていきましょう。
- 異物から体を守るランゲルハンス細胞
- 「ランゲルハンス細胞」は、私たちの体の表皮に存在しています。
表皮に存在する全細胞数の2~5%の割合になります。
ランゲルハンス細胞は、「樹状細胞」と呼ばれる、樹枝のように突起を伸ばした形状をしていて、この「突起」で、 外部から肌に侵入してくる異物(ウイルス・細菌・化学物質など)を見張り、認識します。
体にとって有害な異物が体内に入り込もうとする情報をこうしてキャッチし、それを脳へ伝達。 皮膚を正常に保つべく免疫システムを働かせます。
このように、異物の混入から私たちの体を守る細胞ですが、アトピー性皮膚炎を発症している場合、 その治療の過程でランゲルハンス細胞を減らしてきてしまった人が多いかもしれません。なぜならランゲルハンス細胞の減少は、 ステロイド剤使用と大きく関係しているからです。
- ステロイド剤を使うとランゲルハンス細胞が減る
- ステロイド剤を使用することで、残念ながらランゲルハンス細胞は減少してしまうということが分かってきています。
実験ではベトネベート(ストロングランクのステロイド)を健康な成人男性に1日2回塗布。これをわずか5日間続けただけで、
ランゲルハンス細胞の半分が死滅してしまったという結果が得られました。
同じ実験をアトピー性皮膚炎患者でも行うと、はじめの1週間では細胞数にあまり変化が見られず、2週間で顕著に減少し、 3週間目ではなんと73%が死滅してしまいました。
ステロイド剤を使用するとランゲルハンス細胞が減るだけでなく、実はT細胞(免疫細胞)も減らしてしまうため、 皮膚の免疫力はますます下がります。抗炎症効果も落ち、刺激を受けやすくなり、感染症も起こしやすくなってしまうのです。
ちなみに、このランゲルハンス細胞の減少の仕方は、「アポトーシス」といって、個体を良い状態に保とうとして、 悪くなった細胞が自ら死滅していく「細胞の自殺」であったとも判明しています。
- 一度減ったランゲルハンス細胞はなかなか再生しない
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健常な肌のランゲルハンス細胞までたったの5日間で半減させるステロイド剤。
アトピー性皮膚炎患者の場合は、このことからだけでも使用が不適切であるとわかります。
もし使うのであれば、よほど慎重に期間も塗布範囲も考える必要があるでしょう。慎重になれと言われても、 どう使えばいいか、とても難しい判断になることでしょう。
さて、わずか5日で半減してしまったランゲルハンス細胞ですが、この再生にはどれくらいの日数がかかるのかも気になるところです。 こちらはヒトではなくマウスでの実験になりますが、再生には50日を要したというデータがあります。 回復には実に10倍もの期間がかかっているのですね。減らすのは簡単、でも戻すのは容易ではないということです。