アトピー性皮膚炎はステロイド剤では治せない |
- 元新潟大学大学院歯科学総合研究科教授(2013年3月退官)
1947年青森県生まれ。東北大学医学部卒。米国アラバマ大学留学中の1980年、「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製。その後、胸腺外分化T細胞を発見、白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。2000年にはこれまで定説だった「胃潰瘍=胃酸説」 を覆す顆粒球説を発表し、世界に大きな衝撃を与えた。200を超える英文論文を発表し続ける世界的免疫学者。
- 炎症は治癒反応
- ステロイド剤は炎症を抑えているだけ
アトピー性皮膚炎の治療で頻繁に使われるステロイド剤は、皮膚の炎症を強力に抑えます。一見ステロイド剤が炎症を治しているように見えますが、実は違います。ステロイド剤は炎症という症状を一時的に抑えているだけで、使用をやめれば症状はまた出てきます。それでも、ステロイド剤で治療を行っているとアトピーが治ってしまうことがあります。これは、ステロイド剤で炎症が抑えられている期間に、別の要因で体の状態が元に戻った(自然治癒力がうまく働くようになった)ためです。
体が自力で治すために炎症を起している
ところで、皮膚に炎症が起こるのはなぜだと思いますか? 炎症は、体から異物を追い出そうとするために起こります。風邪で熱が出るのは、細菌やウイルスを撃退するための免疫反応。同じように、かゆみや炎症が起きるのは、その部分の血流を増やして体内の有害物質やアレルゲンを追い出したり、細菌やウイルスと戦おうとする体の反応です。火傷やけがも、一度腫れるという過程を経て治っていくものです。病気やけがをした体は、発熱や炎症を起こして自力で治そうとします。アトピーに限らず、どんな病気を治すときも、この働き(自然治癒力)を妨げてはいけません。
薬で炎症を止めるのは本末転倒
ステロイド剤などの薬剤による治療は、炎症という治癒反応を抑えこんでしまいます。体は自分の力で治ろうとしているのに、薬は逆にその妨害をしてしまっているのです。体には自らを維持するための自然治癒力があります。治る過程で必要があって炎症は起きているということをまず理解してください。炎症を薬で止めてしまうのは本末転倒なのです。
- ステロイド剤をぬると体では何が起きている?
- ステロイド剤を使いすぎると酸化コレステロールに変化する
ステロイドは、もともと人間の体内で作られている副腎皮質ホルモンです。このホルモンを体がつくる量はごくわずかですが、代謝や内分泌機能を調整したり、抗ストレス作用をもたらすなど、いくつもの大切な働きを持っています。
ステロイド剤は、脂質の一つであるコレステロールを合成して人工的に作られた副腎皮質ホルモン。人工的な副腎皮質ホルモンが大量に外部から入ってくると、人体に有用な本来の働きの範囲を超えた弊害が現れます。ステロイド剤を使い続けると、ステロイドが皮膚組織に沈着し、炎症を起こす作用を持つ酸化コレステロールに変化してしまうのです。
アトピー性皮膚炎が酸化コレステロール皮膚炎に移行
コレステロールの多い食事ばかり摂っていると、体内にたまったコレステロールが原因で動脈硬化を起すなど、体に様々な弊害が現れます。これと同じように、皮膚組織内に停滞した酸化コレステロールは、様々な悪影響を及ぼします。
酸化コレステロールは、それ自体が起炎物質であるとともに、交感神経を緊張させます。交感神経が緊張すると、血流が滞ったり、白血球の一種である顆粒球を増加させます。免疫細胞である顆粒球が増えることで、さらに皮膚の炎症が引き起こされやすくなります。この過程で、アトピー性皮膚炎は酸化コレステロール皮膚炎へ移行してしまいます。
薬をいくらぬっても効かない悪循環
この移行は、ステロイド剤を長期間(数カ月~数年)使い続けることで起こりますが、こうなると事態は非常に厄介です。酸化コレステロール皮膚炎をステロイド剤で鎮めようとすれば、以前よりも強い薬剤が多量に必要となります。やがては、薬をいくらぬっても効かなくなるという悪循環に陥ります。