健全な皮膚のバリア機能がアトピー性皮膚炎克服のカギを握る |
- アトピー性皮膚炎が広く一般に知られるようになったのは1990年代と言われています。
もちろん、以前からアトピー性皮膚炎という疾患自体は存在していましたが、主に小児が罹患するアレルギー性の皮膚炎という位置づけだったため、同じアレルギー性疾患である小児ぜん息や慢性鼻炎の方が注目されていました。
その見方が変わったのは、成長と共に自然治癒することが多いとされた小児のアトピー性皮膚炎で自然治癒せず悪化するケースが増加したこと、同時に小児におけるアトピー性皮膚炎の罹患割合が増加し、成人から発症するアトピー性皮膚炎患者と合わせて患者数が急激に増え始めてからです。
アトピー性皮膚炎が世間に認知されるとともに、研究も広く進み始め、原因や対処方法なども変化し始めました。
当初は、主にⅠ型(即時型)のアレルギー反応の病態が多いと考えられていたアトピー性皮膚炎でしたが、三大アレルゲン(卵、牛乳、大豆)が見られない、またRAST検査の結果と症状の度合いが必ずしも一致しない例が増え始め(検査結果の数値が高くても症状が見られない、逆に数値が正常値内であっても強い症状がみられる、など)、次にⅣ型(遅延型)のアレルギーが疑われ、その後、Ⅰ型とⅣ型が混合して現れることが多いと考えられるようになりました。
ちょうど昭和から平成に切り替わる時代でしたが、この段階でもアトピー性皮膚炎は「アレルギー疾患」の位置付けから変わることはありませんでした。
実際、その治療法も主体は、免疫を抑制する薬剤(ステロイド剤や、現在ではプロトピック軟膏など)や抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤など、免疫に関わる治療薬が使われていました。また、アトピー性皮膚炎の診断基準の一つに、家族のアレルギー歴があったことからも、当時、アレルギー性疾患として捉えられていたことは確かでしょう。
そして、アトピー性皮膚炎がアレルギー疾患以外の側面について検討が始まったのは、10年ほど前からで、まだ最近のことです。
しかし、アレルギー以外の側面の研究は、そのスピードも速く、そして大きくアトピー性皮膚炎を取り巻く環境を変化させつつあります。
あとぴナビでは、ここ一〜二年の間で、「皮膚の細菌叢(慶應義塾大学)」、「痒みを伝達する神経(九州大学)」、そして「皮膚と血管壁の関係(大阪大学)」の研究を取材して紹介してきました。
今回は、これら最新の研究内容から、アトピー性皮膚炎を改善していくためのヒントを探っていきましょう。
- ●皮膚のバリア機能がアトピー性皮膚炎克服のカギを握る
- 京都大学が2013年9月、皮膚のバリア機能に影響する「フィラグリン」に注目し、アトピー性皮膚炎発症・悪化の第一原因は、アレルギーというよりもむしろ、フィラグリンが少ないことによる皮膚のバリア機能の低下であるとの発表がなされました。
こうした、アレルギー以外からのアトピー性皮膚炎の研究は、広く行われています。
昨年の春も、慶應義塾大学が、皮膚のバリア機能と細菌叢に関する研究論文を発表しております。
簡単にいうと、アトピー性皮膚炎の方は皮膚の表皮育成因子が不足していることで、健全なバリア機能の形成が行えず、その結果、表皮の細菌叢が、黄色ブドウ球菌やボービス菌が占めることとなり、それら異常細菌叢が体内のIgEを増加させ、そこからアレルギー性の炎症反応を生じさせ、アトピー性皮膚炎を「悪化」させていく、というものです。
黄色ブドウ球菌が出すデルタ毒素が、アレルゲンとの抗原抗体反応を介さずにIgEを増強させることは、すでに一昨年、ネイチャーの論文で発表されていました。
以前は、アトピー性皮膚炎に対する考え方は、「誤った」アレルギー反応から炎症を発症し、掻き壊しによりバリア機能を低下させ、悪化要因を増強することで慢性化していく、というものでしたが、今回の研究結果からは、最初にバリア機能の低下があって、そこからアレルギー反応を誘発するということが分かりました。
- つまり、これまでは
「原因」=「アレルギー」
「結果」=「バリア機能の低下(掻き壊しにより)」
だったのが、
「原因」=「バリア機能の低下(表皮育成因子の不足など)」
「結果」=「アレルギー(IgEの増強)」
と真逆であることが分かったわけです。
もちろん、全てのアトピー性皮膚炎が上記の原因、結果に該当する、ということではなく、主に乳幼児のアトピー性皮膚炎の場合は食物アレルギーなど、アレルギーを起因として発症するアトピー性皮膚炎もあるわけですが、最近、増加の傾向をたどっていた成人から発症するアトピー性皮膚炎の場合には、アレルギーが原因ではなく、皮膚のバリア機能の低下が原因であることが分かったわけです。
そして、この研究から見えてくるアトピー性皮膚炎を克服していくための条件とは、
1.健全な皮膚の細菌叢を形成する
2.異常な細菌叢を形成する要因は排除する
という二つになります。
異常な細菌叢を形成するバリア機能を低下させる要因としては、
◎ 表皮育成因子の不足
◎ 掻き壊し
◎ 皮膚における免疫機能の低下
※紫外線などによるランゲルハンス細胞への影響、ステロイド剤やプロトピック軟膏など免疫抑制作用を持つ薬剤による免疫力の低下など
◎ バリア機能を形成する因子の不足
※汗と皮脂で作られる皮脂膜の形成が上手にできない、など
◎ 健全な皮膚細胞の形成を阻害
※血流が悪い(冷えの状態)ことや、睡眠や食事など生活内の因子による影響を受けるなどがあります。
これらは、「バリア機能を低下させる要因」なのですから、逆に考えるとこうした要因を排除することで「バリア機能をアップさせる」ことができます。