アトピー性皮膚炎の原因に迫る |
- 今年の4月に理化学研究所が発表した研究論文「アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明」によると、アトピー性皮膚炎発症のメカニズムを解明し、発症の予防法が発見されたとあります。この論文を読み解きながら、アトピー性皮膚炎の真の原因を探ります。
- ● アトピーの原因は皮膚にある? それとも免疫異常?
- あとぴナビでは、アトピー性皮膚炎には大きく二つの問題があると考えてきました。一つ目は皮膚の問題。皮膚の乾燥や炎症への直接的な対策として、保湿を中心としたスキンケアが大切です。
もう一つは免疫の問題。アトピー性皮膚炎は、免疫反応が関係した過敏症であるアレルギー体質が原因の一つとされています。アレルギー体質改善のためには、睡眠、食、運動、入浴といった生活習慣を見直し、アレルゲンを避け、皮膚の乾燥を防ぐなど生活環境を整えることが大切です。
アトピー性皮膚炎改善のためには「皮膚」と「免疫」といった二つの側面へのアプローチが考えられますが、そもそもアトピー性皮膚炎の原因とは何でしょう?
あとぴナビレター8月号の予告編でもお伝えしましたが、これがなかなか難しい問題です。
これまで、アトピー性皮膚炎といえばIg E値が高くなり炎症物質に働きかける免疫の問題ととらえた研究が主流でした。しかし最近では「アトピー性皮膚炎は免疫反応とは関係ない」とする研究論文も増えてきました。疾患の原因がはっきりしないのでは、その対策も立てにくくなります。
例えば、ステロイド剤は免疫を抑制することで皮膚の炎症を抑えます。そこで「免疫は関係ないですよ」と言われたら、「薬を塗っても意味ないの?」と思ってしまう方もいるでしょう。あとぴナビ編集部でもさまざまな研究者のお話を聞いてきましたが、取材を重ねるほどアトピー性皮膚炎の原因については混迷していくように感じられました。
- ● アトピーの原因遺伝子と発症過程が解明された
- ところが、今回の取材ではアトピー性皮膚炎の原因がすっきりと整理されてきた感触を持つことができました。理化学研究所統合生命医科学研究センター疾患遺伝研究チームが2016年4月26日に発表した「アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明」という論文について説明しながら、アトピー性皮膚炎の原因に迫っていきたいと思います。
本研究にあたって理化学研究所の研究チームは、人のアトピー性皮膚炎と同じ症状が出るモデルマウスをつくるために、遺伝子変異を誘導した3000匹ものマウスを調べました。遺伝子変異は、マウスの遺伝情報に変化を引き起こす物質を投与することで起こります。その結果、免疫に問題が起きてアトピー性皮膚炎を発症するマウスを開発し、Spade(StepwiseProgressive AtopicDermatitis= 多段階進行性アトピー性皮膚炎)マウスと命名しました。この研究は、Spadeマウスを使って免疫に問題を起こす(アレルギーを起こす)原因遺伝子とその発症過程を調べたものです。
- ● アトピー発症の原因は皮膚組織にあった
- まず、マウスがアトピー性皮膚炎を発症する過程からみていきましょう。Spadeマウスがアトピー性皮膚炎を発症するまでには2カ月(8〜10週間)くらいかかります。出生直後のマウスに皮膚炎はありませんが、この頃から皮膚のバリア機能に異常があることが分かりました。バリア機能に異常があってもすぐに皮膚炎は起こりませんが、表皮の下にある真皮に炎症細胞が集まってきました。この状態で皮膚が刺激を受け続けると、約2カ月後に皮膚炎が起こります。皮膚炎発症の段階では、免疫反応は関与していません。つまり、アトピー性皮膚炎が発症する原因は皮膚組織にあり、免疫系にはないということです。
では、アトピー性皮膚炎と免疫は無関係かといえば、そうではありません。皮膚炎が起こった次の段階で、免疫反応が関与してきます。皮膚炎によるかゆみで皮膚を掻くなどの刺激により角質層の破壊が進み、2型ヘルパーT細胞(Th2)が活性化することでアレルギー反応が起こり炎症を増強させていきます。
以上、アトピー性皮膚炎の発症過程をまとめると左図のようになります。
このように、アトピー性皮膚炎はいくつかの段階を経て進行していきます。8年ほど前、ニューイングランドジャーナルという医学雑誌に、「皮膚炎は先天的バリア機能の異常から発症し、その後Th2が活性化することでアレルギー反応が起こり慢性化していく」という趣旨の研究発表がありました。今回のマウスによる実験は、まさにその通りの結果を示したことになります。