生命にとって亜鉛が いかに重要かを知る |
- 生命維持に不可欠な 必須微量元素
- 栄養学において、人体に必須とされるミネラル(無
機質)は
16
種類あります。このうち1日の必要摂取
量がおおむね100mg 以上のものを「主要ミネラ
ル」、1日の必要摂取量100mg 未満のミネラルを
「微量元素」と分類しています。
亜鉛は9種類ある必須微量元素の1つです。成人 の体内には約2g の亜鉛が保有され、その維持のた めに、毎日15mg 程度の摂取が必要です。 微量ながらも、人間の生命維持に不可欠な栄養とされている亜鉛で すが、前号の予告記事 (2018年あとぴナビ 電子版1月号)でお伝え したように、これまでの 日本ではその重要性が十 分に認識されにくい傾向 がありました。 これから紹介する新た な亜鉛研究の潮流は、そ んな状況を一変させるイ ンパクトを持ったものですが、その前に、亜鉛の重要性を示した先人の研究 から順を追っていくことにしましょう。
- イランの風土病が 亜鉛の重要性を証明した
- 亜鉛が欠乏するとどうなるのか? その決定的な
最初の報告は、今から半世紀以上前の1960年代
初頭に発表されています。当時、イランのある地域
では、不可解な風土病が問題となっていました。成
長遅延のため成人になっても子供のような体型、感
染症にかかりやすい、貧血、肝脾
腫、性機能不全、皮
膚障害などが特徴で、土つち塊く れを好んで食べるという奇
妙な習慣もありました。
現地を調査していたプラサド(Prasad) 博 士らの グループが、患者の組織の一部を成分分析したとこ ろ、亜鉛の含有量が減少していることが判明。亜鉛 を補給することで症状が著しく改善したことから、 亜鉛が体に及ぼす多様かつ重要な働きが確認された のです。
亜鉛欠乏の原因は、未発酵パン、ミルク、ポテトと いった主食だけで食事を済ませるこの地域特有の食 習慣にありました。明らかに栄養バランスを欠いた メニューですが、ポイントは「フィチン酸」にありま す。
小麦粉製品や穀物、豆類などに多く含まれるフィ チン酸は、亜鉛や鉄と強く結びつき、体内に吸収さ れずに排出されてしまうという性質があります。彼 らが常食していた未発酵パンには、特にフィチン酸 が多く含まれていました。亜鉛を排出しやすい成分 を多く含む食品を主食としていたことが、深刻な亜 鉛の欠乏を招き、この地域で亜鉛欠乏症特有の症状 が現れたというわけです。
ところで、なぜ患者たちには土塊を食べる習慣があったのでしょう? それは、その土が特に美味しかったわけではなく、亜鉛不足による味覚障害が原因でした。現地で亜鉛の摂取量を改善したところ、 亜鉛欠乏症の発症は次第に減り、土塊を食べる習慣もなくなりました。