ステロイド治療の「メリットゾーン」と「デメリットゾーン」(3) |
- 4. ステロイド剤がアレルギーを悪化させる
- 14名の小児を対象にステロイド剤の塗布前と塗布後1カ月後の卵白の特異トピー性皮膚炎を悪化させる恐れがあることは確かです。
2013年には世界的に著名な科学雑誌ネイチャーで、黄色ブドウ球菌が産生する毒素(デルタトキシン)が肥満細胞を活性化し、アトピー性皮膚炎を誘発する、という論文が発表されました
「Staphylecoccus δ -toxin promotesmouse allergic skin disease by inducing mastcell degranulation.2013/11/21.nature」より
通常、アレルギーの炎症を引き起こすIgE抗体は、アレルゲン(抗原)に対するカウンターとして作り出されますが(抗原抗体反応)、黄色ブドウ球菌が出すデルタ毒素は、アレルゲンがなくても、IL4(インターロイキン4)を介してIgE抗体を増強、さらにそのIgE抗体が肥満細胞を脱顆粒させることで、炎症、痒みを生みだしていることが分かりました。
また、IgEには3つの受容体(FcεRⅠ、FcεRⅡ、Galectin-3)があります。健常な方の、B細胞は表面(surface)にIgEを持ちませんが(sIgE-B細胞)が、インターロイキン4などの刺激を受けることで、表面にIgEを持ち、さらにガレクチン‐3(Galectin-3)の受容体も発現したsIgE+B細胞へと変化することが確認されています。そして、アトピー性皮膚炎の方には、このsIgE+B 細胞が多いことが分かっています。
このガレクチン‐3を発現したsIgE+B 細胞は、アレルゲンと結合することで、IgEを放出します。本来、IgEなどの免疫(抗体)はアレルゲンなど異物を感知したことでTリンパ球が指令を出し、B細胞が作り出すわけですが、このガレクチン‐3の受容体を介した反応は、通常の抗原抗体反応を介さずにIgEを作り続け、体内のIgEが爆発的に増えることで、アレルゲンへの感受性を高めた状態に陥らせます。
健常な方には少ないsIgE+B 細胞へと変化させる、インターロイキン4を増やす要因は、大気中の化学物質や運動不足、睡眠不足などがありますが、ステロイド剤もインターロイキン4を増やすことが確認されています。つまり、ステロイド剤の連用は、インターロイキン4を増加↓ sIgE-B細胞をsIgE+B 細胞へと変化させることで、体内でIgEを増強させる恐れがあり、この点からもアレルギー反応を増強、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因になることが分かります。
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1994年の日本皮膚科学会雑誌104巻では、「アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌│皮疹部,無疹部における黄ブ菌検出率,ファージ型および薬剤感受性について│」という論文において、アトピー性皮膚炎患者48例全例から黄色ブドウ球菌が検出されたことが報告されています。さらに、2015年5月には、慶應義塾大学医学部から「皮膚細菌巣バランスの破綻および黄色ブドウ球菌の定着がアトピー性皮膚炎の炎症の原因となる」という論文が発表され、黄色ブドウ球菌やコリネバクテリウムボービス菌など異常な※細菌叢が皮膚に形成されることがアトピー性皮膚炎発症や悪化の原因になることが明らかにされています。
ステロイド剤は、「免疫抑制」の効果を持つ薬剤です。そのため、長期連用による感染症の誘発は主な副作用として示されており、ステロイド剤の長期連用が、健全な皮膚の細菌叢を乱し、こうした黄色ブドウ球菌など異常な細菌叢の形成を促すことで、デルタ毒素などによるIgE増強からアトピー性皮膚炎を悪化させていることが、最近は研究者の間で指摘されるようになってきました。
このようなステロイド剤の使用によりアレルギーを増強することを示す医学的な論文は、数多く報告されていますが、ステロイド剤がアレルギーを悪化させる恐れがあることを「ステロイド剤を処方する医師」は、あまり患者に指摘せずに処方しているようです。
もちろん、メリットゾーンの中では、皮膚の健全な細菌叢を乱す恐れは少なく、アレルギーが増強されるリスクは小さいと言えるでしょう。しかし、デメリットゾーンに入ってくると、皮膚のバリア機能そのものが低下した状態に陥ることで、そこにステロイド剤の免疫抑制効果が健全な細菌叢の形成を妨げ、黄色ブドウ球菌の定着を招きやすくなることは確かですので、注意する必要があるでしょう。
このように、ステロイド剤の使用による影響は、響などが大きくなければ、薬剤の効果により炎症は抑えられ痒みも落ち着かせることができます。しかし、その一方、体の中では、IgEが増強され、炎症を作り出す力はより強まってきます。つまり皮膚の表面上は、ステロイド剤という薬剤で「マスキング」されて問題がないように見えても、マスキングされた下は、問題が積み重なっていく状態、ということになります。ステロイド剤の抗炎症効果で炎症が抑えられている間は大人しくても、何らかの要因(季節の変わり目、精神的、身体的なストレス、環境の変化、環境中の化学物質、睡眠不足や栄養の過不足、運動不足など)が加わることで、溜めこんだIgEが一気に炎症を作り出すと、悪循環の輪が形成されることで、皮膚のダメージとアトピー性皮膚炎そのものが悪化を繰り返すことになります。
今、自分がゾーンのどの立ち位置にいてステロイド剤を使っているのか、しっかり把握しておくことは大切でしょう。