アトピーを克服するためにいま本当に必要なこと |
安保 徹(あぼ・とおる) 新潟大学大学院医歯学総合研究所教授 1947年青森県生まれ。東北大学医学部卒。米 国アラバマ大学留学中の1980年、「ヒトNK細 胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を 作製。その後、胸腺外分化T細胞を発見、白血 球の自律神経支配のメカニズムを解明。2000 年にはこれまで定説だった「胃潰瘍=胃酸説」 を覆す顆粒球説を発表し、世界に大きな衝撃を 与えた。200を超える英文論文を発表し続ける 世界的免疫学者。著書は『免疫革命』(講談社 インターナショナル)『未来免疫学』(インター メディカル)など著書多数。 |
- ―病院でステロイド剤を出され て、言われたとおりに塗ってもア トピー性皮膚炎(以下アトピーと 略)が治らなくて困っている人は いまだに多いですね。患者さんの声を聞くと、ステロ イド治療が長い人ほど、ステロイ ド剤に対する不信感が強まる傾向 があるようです。
- ステロイド剤は強力に炎症を抑え
るのでアトピー治療にもよく使われ
ますが、ステロイド剤を使っていて
もアトピーは治らないばかりでなく、
かえって悪化させていることに気づ
いた患者さんが増えているのではな
いでしょうか。
短期間だけ使うことはそれほど問 題ないですが、実際はステロイド剤 をやめることができず、一時中断し ても結局は症状がぶり返し、長期間 使い続けてしまうケースが多いわけ です。すると皮膚が薄く なる、赤みが取れなくな るなどの副作用が出た り、弱い薬が効かなくな り、次第に強い薬を使う ようになり、塗る量も増 えていくことが大きな問 題です
- ―薬が強くなり、増えていくとどうなりますか?
- 薬がやめられなくなり
ます。やめると強い離脱
症状が出るからです。
ステロイド剤はコレステロールを 合成して作られていますが、使い続 けると皮膚にコレステロールが蓄積 します。これが排泄されにくく、そ れ自体が起炎物質の『酸化コレステ ロール』に変化し酸化コレステロー ル皮膚炎を起こすのです。これが離脱症状の正体です。ステロイド剤を 長期間使うことによってアトピーと は別の炎症が起こり、その炎症を抑 えるためにさらに薬を増やし、強い 薬にレベルアップするという悪循環 が始まります。ステロイドの塗り薬 が効かなくなると、次は飲み薬、次 は別のもっと強い薬とエスカレート していくのが今の医療。副作用のな い薬はありません。長期間強い薬を 使い続けた場合、副作用は非常に危 険です。
- ―離脱症状を体験して、ステロイド剤はもう使いたくないと考えている患者さんは増えていると思います
- ステロイド剤などの薬剤を使った
治療は、一時的に炎症を抑えるだけ
の対症療法で、アトピーの根本的な
治療法ではありません。
ステロイドに限らず薬を使うとい うことは、体が自力で治ろうとする ステップを止めてしまうこと。体に は自らを維持するための自然治癒力 があります。治る過程で必要があっ て炎症は起きているということをま ず理解してください。炎症を薬で止 めてしまうのは本末転倒なのです。
- ―炎症こそが治癒反応ということ ですね。
- 風邪で熱が出るのは、細菌やウイ
ルスを撃退するための免疫反応です。
同じように、かゆみや炎症が起きる のは、その部分の血流を増やして体 内の有害物質やアレルゲンを追い出 したり、細菌やウイルスと戦おうと する体の反応です。火傷やけがも、 一度腫れることで治るでしょう。体 は病気やけがをすると、発熱や炎症 を起こして自力で治そうとします。
この働き(自然治癒力)を妨げ てはいけません。アトピーに限 らず、どんな病気を治す時もこ の考え方が基本です
- ―そう考えると、ステロ イド剤の離脱症状は、体 にたまった酸化コレステ ロールを追い出すための 反応ですね
- そのとおり。離脱症状はアト ピーの悪化ではなく治癒反応で す。離脱症状で酸化コレステロ ールを排出できれば、やがて元 の肌に戻ることができます。
- ―治るステップを止めるという 意味では、他の薬も同じですか。
- 例えば体内のヒスタミンという物
質には、治癒反応として血管を広げ
血流を増やす働きがあります。この
とき感じるのが痒みです。アトピー
治療でよく使われる痒み止めの抗ヒ
スタミン剤は、このヒスタミンの働
きを抑えることによって、一時的に
アレルギー反応を抑えます。しかし
これもアトピーを治すことにはなり
ません。
抗セロトニン剤、抗ロイコトリエ ン剤、今話題のプロトピックやシクロスポリンなどの免疫抑制剤、どん な薬も治るステップを止めるという 意味では同じです。
免疫抑制剤を使えば免疫力は低下 し、病気にかかりやすい体になりま す。副作用は計り知れないでしょう。
抗ヒスタミン剤を使えば、血管収縮 作用で体が冷えて低体温になります。
薬を使えば治癒とは逆の方向に向か い、いつまでたっても病気そのもの は治りません。