ステロイド剤でアトピーは治せない |
木俣 肇先生(きまた・はじめ) 木俣肇クリニック院長・医学博士 1953年生まれ。77年京都大学医学部卒業。85年からUCLAに留 学し、アレルギーの研究に従事。アトピー性皮膚炎に関する研究 を海外の雑誌に多数発表。アトピー性皮膚炎患者の毛髪分析にて、 ミネラル異常を世界で初めて報告。アトピー性皮膚炎は適切な治 療と、規則正しい生活、感情の豊かさ(愛情と笑い)によるストレス 発散によって治療しうるとして、講演活動も積極的に行っている。 |
- 今でも、アトピー性皮膚炎(以下、「アトピー」と略します)の治療にステロイド剤を使用している、または過去に使用していた、そういう方は多いでしょう。そして、「アトピーにステロイド剤を使ってはいけない」という「噂」や「話」を聞いて、なぜ使ってはダメなのかの根拠はつかめないままに止められた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ステロイド剤の“何”が、アトピーにとって“どう”よくないのか──、アトピーを克服するための基本的な知識とし て、「アトピーとステロイドの関係」をぜひ知ってください。
- ステロイド剤はアトピーを治すための薬?答えは” NO!“
- ステロイド剤は「免疫抑制剤」です。
もともとアトピーを治すために作られ
た薬剤ではありません。
アトピーの発症により、結果として
現れた「かゆみ」や「炎症」を抑える
力を、ステロイド剤という「免疫抑制剤」が持っているため、"アトピーの
対症療法に役立つ薬"として用いられ
ているのです。
「免疫抑制剤」は、主に臓器移植を受 けた際などに用いられる薬です。人間 の体はとても精巧で繊細にできていま す。自分がもともと持っているもの以外の臓器が体内に入った時点で外敵だと察知し、これを排除しようと働くよ うになっています。しかし、せっかく 移植した臓器を拒否してしまっては、なんのために受けた移植か、わからな いことになってしまいます。
外敵と判断したもの(ここでは臓器) が体内に入ったときに起こる拒絶反応 (正しい免疫反応)を抑えて臓器を定着 させるためには「免疫抑制剤」が必要で、その一つがステロイド剤です。
アトピー治療薬として広く使われて いるステロイド剤は「免疫抑制剤」。自 己の免疫力を抑制することで、アトピ ーにより生じたかゆみや炎症さえも抑 えてしまうのです。
- アトピーとは、炎症反応が
あって、そこに細菌感染症も
起こしている状態です。さら
にストレスが加わってくるこ
とで悪化します。こうした複
合的な症状に対しても、ステ
ロイド剤は「炎症反応」だけ
を抑えるので、アトピーの原
因の「根治」につながるもの
ではありません。
厄介な問題は、ステロイド 剤は免疫抑制剤なので、「使 えば自分の免疫力を下げるこ と」です。皮膚の免疫力も落 としてしまいますから、二次 感染など、感染症をさらに招 きやすくする危険性がありま す。
- ヘルペス発症とステロイド剤の関係は?
- 最近、アトピーの悪化、難治化
の原因の一つであるヘルペスに感
染する患者さんの数が顕著に増加
しています。これまでアレルギー
のなかった人でも突然発症する傾
向も見られます。温暖化などの環
境の変化や、ストレスを抱える不
安な時代の到来でリスクファクタ
ーが高まっている
――、こうした 背景がヘルペス増加につながって いるようです。
特にステロイド剤を使用してきた 場合は問題が複雑で、使っていない 人がヘルペスにかかっても"治りが 早く、繰り返さない"のに対し、ス テロイド剤使用者は、"何度もヘル ペスを再発させ、治りが遅い"ので す。極端な例では、10回ほども繰 り返しかかる方もいます。このこ とから、ヘルペスにステロイド剤 が何らかの影響を与えていると考 えられています。