冷えとりで病が治る 第5回 |
監修:川嶋 朗(かわしま あきら) 東京女子医科大学附属青山女性・自然医療研究所・自然医療部門准教授/東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長 1957年生まれ。北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院修了。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学。医学博士。専門は腎臓病、膠原病、高血圧症など。東洋医学、代替医療などにも造詣が深く、統合医療に精通。『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社新書)、『クールな男は長生きできない』(ORANGE PAGE BOOKS)、『すべての病は「気」から!』大和書房など著作多数。 |
- 「仕事や勉強のストレスで胃が痛い」こんな話をよく聞きます。 胃・十二指腸潰瘍は、ストレスと深い関係のある病気。 ストレスや冷えとの関係から、潰瘍になりにくい生活を考えます。
- 食物はどのように消化される?
- 私たちが食べたものは、消化器を通ることで消化・吸収されます。消化器は、食物が
通過する消化管と、栄養分を消化・吸収するために必要な胆汁や膵液を分泌する肝臓・胆嚢・膵臓に大別できます。
消化管は、食道→胃→十二指腸→小腸→大腸という順につながっています。食道から胃の中に運ばれた食物は、胃壁のリズミカル
な収縮運動(蠕動運動)によって大量の胃液とよく混ぜあわされてお粥のように溶かされます。胃の内壁から分泌される胃液は、
胃酸、ペプシン、粘液が主成分。強い酸性で殺菌作用がある胃酸は、食物の腐敗・発酵を防ぎます。ペプシンはたんぱく質を分解
し、胃の内部を覆っている粘液は、強い酸から粘膜を守っています。
胃で消化されやすい状態になった食物は、十二指腸に送られます。十二指腸では、膵臓から分泌される膵液や肝臓から分泌され る胆汁といった消化液が、食物を糖質・たんぱく質・脂肪に分解します。十二指腸で分解された後、食物の栄養素 は小腸、水分は大腸に吸収され、不要なものは排泄されます
- 消化管に傷がつき潰瘍ができる
-
これらの消化管に傷がつき、その部位が崩れた状態が潰瘍です。消化管のうち最も潰
瘍ができやすいのは胃と十二指腸で、胃にできれば胃潰瘍、十二指腸にできれば十二指腸潰瘍です。
胃・十二指腸潰瘍でよくある症状は、みぞおちあたりの痛み。胃潰瘍の場合は食べ 物が胃に入ったとき、十二指腸潰瘍の場合は胃がからっぽのときや夜間に痛みやすい 傾向があります。他には、吐き気、胸やけ、げっぷ、食欲不振、悪心、吐血・下血、腹部 膨満などの症状があります。これらの症状は、複雑に絡み合って出ることが多く、他の 消化器疾患や他臓器の病変によって出現することもあります。
また潰瘍が進行し、壁を破ってあながあく穿孔(せんこう)という状態まで悪化すると、内容物 が腹腔に流れ出して腹膜炎を起こす場合があります。この場合は手術が必要となります。
- 胃・十二指腸潰瘍はなぜ起こる?
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潰瘍が起こる原因については、諸説があり
ます。
●精神的ストレス
悩み事や緊張などの精神的ストレスに よって自律神経のバランスが崩れ、胃液分泌 の調整がうまくいかない。
●ピロリ菌感染
潰瘍患者の大部分にヘリコバクター・ピロリ 菌が認められることから、ピロリ菌が胃酸と 粘膜のバランスを崩している。
●非ステロイド系消炎鎮静剤(NSAIDs)
非ステロイド系消炎鎮静剤が、胃粘膜を 保護する物質の産生を抑制することから、 粘膜障害が起こる。
これら諸説の根本には、胃液中に含まれる胃酸と胃酸から胃粘膜を守る粘液分泌 のバランスが崩れて潰瘍が起こるという考え方があります。胃酸は肌をただれさせるほ どの強い塩酸なので、胃酸が出過ぎることによって粘膜が傷つき潰瘍になるというわけで す。諸説の違いは、胃液成分のバランスを崩す主因(ストレス、ピロリ菌、非ステロイド系 消炎鎮静剤など)が何であるかの違いです。