主治医も知らない!?「IgE」とアトピーの関係 |
監修:木俣 肇先生(きまたはじめ) 木俣肇クリニック院長・医学博士 1953年生まれ。77年京都大学医学部卒 業。85年からUCLAに留学し、アレルギ ーの研究に従事。アトピー性皮膚炎に関 する研究を海外の雑誌に多数発表。アト ピー性皮膚炎患者の毛髪分析にて、ミネ ラル異常を世界で初めて報告。アトピー 性皮膚炎は適切な治療と、規則正しい生 活、感情の豊かさ(愛情と笑い)によるス トレス発散によって治療しうるとして、講 演活動も積極的に行っている。 |
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2009年3月発行のアメリカ病理学誌「The American
Journal of Patbology,Vol.174, 922-931」に、注目すべき論
文「マウスにおけるアトピー性皮膚炎のアレルギー性炎症反応には、
ガレクチンー3が非常に重要である」(原文は英語)が発表されまし
た。そこには、「アトピー性皮膚炎はどうしてなかなか治らないの
か?」という疑問に対する一つの答えが書かれていたのです。
難しい内容ですが、この論文に書かれていたことも少し交えなが
ら、私たちは何に注意してアトピー性皮膚炎(以下、「アトピー」と略
します)治療に取り組むべきかを、IgEの専門家で長年研究されて
いる木俣肇先生に分かりやすくお話をしていただきました。一緒に
考えていきましょう。
- 免疫システムとIgE
- 「花粉」に「小麦」に「牛乳」「大豆」な
ど、体内に入ればアレルギーを引き起こし
てしまう――。その人にとってのアレルゲ
ン(抗原)が体内に侵入したとき、体の中
では何が起きてアレルギー反応が出るのか、
ご存じの方も多いでしょう。
イメージしやすく言えば、「アレルゲン (抗原)=敵」が体に入ってきた!」と察 知した体は、「戦わねば!」と、アレルゲ ンを攻撃するために武器を作ります。その 武器は、「抗原」に対し「抗体」と呼ばれ るもので、実態は「免疫グロブリン(Ig )」というもの。アトピーに関わってくる免疫 グロブリンは、「Ig」の中でも最後に紅斑 (Erythema)を表す「E」の付く「IgE」と なります。また、「E」は、アルファベッ トの5番目の文字なので、それまでに見つ かったIgG、IgM、IgA、IgDに次ぐ”5番 目の抗体”という意味も込められています。
免疫システムが正常に機能している体内では、本来なら、抗原を抗体で攻撃し、 体外へと追い出します。たとえば、ハ ウスダストを吸い込んでしまい、 「くしゃみ」をするのも、そのくし ゃみでハウスダストを体外へと 追い出すため。しかし、免疫シ ステムに異常があると、本来、 体に対して無害なものにまで抗 体を過剰に生産してしまうこと があります。アトピーの人の場 合がそれで、無害なものに対し て過剰に生産された抗体が、炎症 (炎症から生じるかゆみ)というア レルギー症状を起こしているのです。
- IgE受容体には3種類ある
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抗原を攻撃する抗体であるIgE。
このIgEは、細胞に結合するための受容体をいくつか持っています。
そして、この受容体の中で、最近では3つの受容体がアレルギーに 関与していることが分かってきました。左の図をご覧ください。 図にあるように、3つの受容体のうちの一つ目は「FcεRI」と呼 ばれるもので、これは肥満細胞などに存在します。「高親和性受容 体」といわれるように、IgEとの結びつきがとても強い受容体です。
この、「FcεRI」とIgEの結合によって起こるのが、よく知られてい る「I型(即時型)アレルギー」で、つまり「食物アレルギー」や 「じんましん」のことです。
アトピーをこのI型の反応だと考えている医師も未だ数多く存在 します。しかし、IgEの受容体は「FcεRI」以外にも「FcεRII」と 「Galectin - 3」があり、アトピーの場合は、この3つ目の受容体 「Galectin - 3(Gal - 3)」が特に関与しているのだと、前述の論文 「The American Journal of Pathology,Vol.174『マウスにおける アトピー性皮膚炎のアレルギー性炎症反応には、ガレクチン3が非 常に重要である』」は発表しています。
仮に食物アレルギーを原因とするアトピー性皮膚炎の方の場合、 原因となる食品を摂取さえしなければアトピーは治ることになるで しょう。しかし、そうは簡単にいかないことから、この論文が発表 される以前も、I型がアトピーの本体だとは考えられにくかったの です。
「アトピーには『Gal - 3』が特に関与している」ということは、ま だIgEの専門家しか知りえない話かもしれません。アトピーを治療 する医師たちの間にも、この論文の内容が常識となればいいのですが。