冷えとりで病が治る 第11回 |
監修:川嶋 朗(かわしま あきら) 東京女子医科大学附属青山女性・自然医療研究所・自然医療部門准教授/東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長 1957年生まれ。北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院修了。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学。医学博士。専門は腎臓病、膠原病、高血圧症など。東洋医学、代替医療などにも造詣が深く、統合医療に精通。『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社新書)、『クールな男は長生きできない』(ORANGE PAGE BOOKS)、『すべての病は「気」から!』大和書房など著作多数。 |
- ちょっとしためまいや耳鳴りに悩んでいる方は多いでしょう。 めまいや耳鳴りは、何かの病気の注意信号であることが多いもの。 それら様々な病気の根っこを探ってみると、 ある一つの共通点が見つかります。
- めまいや耳鳴りは、程度の差はあれ大抵 の方が経験する症状。それぞれの症状を伴 う病気は様々ですが、東洋医学的な視点か らみれば、根っこの方ではつながっています。 東洋医学では、人間の内臓全体を五臓六 腑(五臓=肝・心・脾・肺・腎、六腑=胆・胃・ 小腸・大腸・膀胱・三焦)で表しますが、めま いや耳鳴りは、五臓の「腎」の衰えと考える ことができます。 「腎」は、西洋医学でいう腎 臓だけを指すのではなく、生殖器系、内分 泌系、自律神経系などの生命活動にとって 重要な働きをする器官すべてを指します。 今回は、 「腎」という観点からめまいと耳鳴り について考えます。
- めまいは水毒によるもの
- めまいの起こり方には2つのタイプがあり
ます。クラっとふらついてしまうめまいと、目
がクルクル回る回転性のめまいです。ふらつく
タイプのめまいは、脳卒中など脳の病気、心
臓病、高血圧症、低血圧症、低血糖、貧血
など実に様々で、脳の血流の問題がからん
でいます。回転性のめまいは、中耳炎などの
耳の病気にかかったことがある場合や、メニ
エール病、良性発作性頭位めまい症など、耳
の問題がからんでいます。
これらのめまいを東洋医学では水毒症と 呼びますが、なぜ「水毒」なのでしょう? 漢方には、体を形づくっているものを「気・ 血・水」の3つの要素で捉える考え方があり ます。
「気」は生命エネルギー、「血」は血液、「水」は体液で、これら三要素のバランスが保 たれ、気・血・水それぞれが滞ることなく流 れることで健康が保たれます。
水毒は、体内の「水」が停滞した状態。水 分を取りすぎたり、体内の水分がうまく代 謝されなかったり、排泄が不十分だったり すると、体は水分過剰な状態になります。 過剰な水分が体を冷やし、体が冷えること によって更なる水毒を招きます。
西洋医学的な観点からも、メニエール病 などによる回転性のめまいに関しては、内 耳に水(リンパ液)が過剰に溜まることが原 因です。リンパ液を水毒と考えるとわかり やすいでしょう。
体に溜まった水毒は、水はけをよくして体 外に排出しなければなりません。そのため には五臓(特に「腎」)をしっかり働かせるこ とです。そして五臓がしっかり働いて「水」を 外に出すために必要なのが、熱、つまり「気」 によるエネルギーです。
水の滞り(水毒)は、冷えの状態をもたら すから、水はけをよくするためには、体を温 めて熱をもたらすことが有効です。
ちなみに水毒症は、めまいだけではなく、 むくみ、リウマチ(関節の水毒)、喘息(気管 の水毒)、副鼻腔炎(鼻の水毒)といった症状 の原因にもなっています。
- 腎機能の低下で耳鳴り
-
耳鳴りが長く続いたり、聞こえが悪くなっ
た場合に考えられる耳の病気には、メニエー
ル病、突発性難聴や老人性難聴、風邪をひ
くとなりやすい中耳炎や耳管狭窄賞(じかんきょうさくしょう)
、耳垢が外耳道をふさぐことで起こる耳垢栓塞(じこうせんそく)
などがあります。
高血圧症や低血圧症、女性の更年期障害 の症状として起こることもあり、薬が原因 となることも考えられます。東洋医学では、「腎は耳に開竅(かいきょう) する」という言葉があります。開竅とは「穴を開く」と いう意味で、聴力(耳)と「腎」は深く関連し ていると考えられています。確かに、耳鳴り があったり、耳の聞こえが悪いという患者さんを検査していて、耳の異常はないのに、他 の臓器などの機能が低下しているケースがま まあるものです。
西洋医学にも、腎と耳の関連を示唆する ような話があります。アミノグリコシド系の 抗生物質にゲンタマイシンという薬がありま すが、この薬の副作用は耳と腎臓に出ます。 また、アルポート症候群という遺伝性の 腎臓疾患があります。加齢とともに腎 臓機能が低下し、成人後に腎不全など の疾患を引き起こす病気ですが、腎機 能の低下とともに、神経性の難聴も伴います。
耳と腎臓の関係は、はっきり解明されてい るわけではありませんが、様々な病気や現象 をみていると、何らかの関係があるのではな いかと思います。